2009年11月08日

失神

失神(しっしん、syncope(シンコピー))とは、大脳皮質全体あるいは脳幹の血流が瞬間的に遮断されることによって起こる一過性の瞬間的な意識消失発作である。通常は数分で回復し、意識障害などの後遺症を起こすことはない。

通常、失神が起こる前に、目の前が真っ暗になる感じや、めまい感、悪心などがあり、その後顔面蒼白となり、ついに意識が消失する。また、失神の発作は、立っている時に起こることが多い。突然、姿勢維持筋緊張が消失するため外傷を負うことが多い。ヒステリーによるものの場合は外傷が見られない場合が多い。

●病態生理

典型的には以下のようなプロセスとなる。脳底動脈支配領域の神経症候が主症候となる。脳の上位部から虚血が起こるので後頭葉障害で眼前暗黒感、上位脳幹網様体障害で意識障害、延髄の前庭脊髄路障害で失立となる。反射性に交感神経が刺激され冷感を同時に感じることが多い。

●似た症候との区別

失神と紛らわしいものにめまい(特に浮遊性めまい)、痙攣意識障害という症候がある。痙攣との違いは痙攣の場合は失禁や失便が多いのに対して失神ではそれらは稀であること、痙攣の場合は痙攣後意識障害がある場合が多いが失神では見られないこと、また、意識障害や痙攣よりも失神は早期に回復するといった特徴がある。また痙攣の場合は意識消失はするが筋緊張消失せず、逆に特徴的な体動を示す場合が多い。欠神発作というよく似た言葉があるが、これはてんかんであり失神とは全く関係がない。痙攣ならば代謝性アシドーシスがかなりの頻度でみられるが失神ではまずみられない。いずれにせよ注意深い問診(本人だけでなく目撃者も)によってある程度区別することができる。

●失神のマネジメント

大脳皮質全体、あるいは脳幹の血流が瞬間的に遮断されるような病態で失神は起こる。頻度としてはほとんどが循環器疾患である。脳血管障害、特にTIAによるものは非常に稀である。これは解剖学によって説明ができる。大脳皮質全体の血流を遮断するには脳を灌流する4本の血管(左右の内頸動脈と椎骨動脈)を同時に遮断しなければならない、これは非常に難しい。事実、多くの格闘技でいわゆる絞め技でも瞬時に相手を失神させることはできないことから明らかである。例外として脳底動脈が遮断された場合は失神を起こしえる。失神で特に危険なのは致死的不整脈、すなわち心室細動心室頻拍が一過性に起こった場合である。致死的不整脈による失神は本当に瞬時に起こるため受け身をとることができない。そのため顔面外傷などの合併をみたら念入りに心疾患を探さなければならない。失神の患者を診る場合は必ず失神の原因検索(大抵は不整脈が原因なのでまずは心電図、必要なら不整脈の原因となる心疾患を検索する)と外傷検索を同時に行うことである。特に頭部打撲ではネックカラーによる固定、必要ならばJATECプロトコールにて対処を行う。わずかながら存在する脳血管性の失神の場合は失神後、頭痛麻痺などの症状が伴う場合が多い。このような神経学的異常や頭部外傷を認める場合は頭部CTも施行する価値はあるがルーチンとしては特に必要ではない。失神後痺れを訴える患者などでは非常に悩ましい。近年、脳ドック普及などのよって微小梗塞が数多く指摘されるようになり、それに伴い痺れを脳梗塞の前駆症状ととらえる人もいる。しかし基本的に痺れはほとんどの場合は脳血管障害と関係はないとされている。

重要な情報としては病歴に疼痛、悪心、下痢吐血下血メレナなどがあるか、バイタルサインの動き、眼瞼結膜の貧血、頸動脈狭窄音、心雑音、直腸診による便潜血などがある。検査としては一般的な検査のほかにラピチェック、トロップT、D-ダイマーを測定することが望ましい。血液ガスにて代謝性アシドーシスがないということは痙攣との鑑別となる。

●主な失神の原因疾患

失神患者は、救急室受診者の3%を占める。一般の市民を対象としたFramingham Studyによると、26年間に失神歴を有した人は、男性3.0%、女性3.5%であった。失神の原因としては2000年代中盤のデータでは反射性(36〜62%)、心原性(10〜30%)、起立性(2〜24%)、脳血管性(1%)とされている。

心原性失神
心拍出量の減少により脳血流が減って起こす失神。原因疾患は多く、洞不全症候群房室ブロック・上室性頻拍・心室頻拍心停止大動脈弁狭窄肥大型心筋症急性心筋梗塞ファロー四徴症・左房粘液腫などがある。
血管性失神
急性大動脈解離や腹部大動瘤破裂、肺塞栓症などで起こる。大動脈解離や腹部大動脈瘤破裂は疼痛や身体診察などで特徴づけられるが肺塞栓症の診断はよほどエピソードが特徴的でないと診断が難しい。しかし、肺塞栓症の14%は失神が初発であるというデータもある。もしD-ダイマーの迅速キットがあれば診断は容易になる。急性大動脈解離、静脈血栓塞栓症においてD-ダイマーの感度は100%である。すなわち、陰性ならばこれらの疾患をほぼ否定できる。
神経心原性失神
迷走神経反射などとかつては言われていたが、迷走神経以外の副交感神経の反射でも起こるので近年は神経心原性とか反射性ということが多い。基本的には失神を起こした状況によって疑いをかける。典型的には徐脈かつ低血圧であり、神経学的異常は認められず、検査によって他の疾患が否定できたときに診断できる。神経心原性失神の場合は点滴のみで改善できる。必要があれば硫酸アトロピンを0.5mg静注してもよい。全体としては交感神経機能の減退や糖尿病の合併がある高齢者の方が多い。排便時の迷走神経反射、排尿時の仙髄副交感神経反射、咳による舌咽神経反射、採血の迷走神経反射なども有名である。また、オーガズムによって起こることもある。
血管迷走神経反射性失神
略称VVR。最も頻度が高く、健康人にも起こる。若年者に多い。強い痛みや精神的ショックや情緒的ストレスが誘引となり、交感神経の活動が亢進、頻脈が起こる一方、静脈床に血液が貯留する。このため静脈還流量が減少し、逆に副交感神経が優位となり、血管拡張・徐脈となり、脳血流が低下、失神が起こる。病歴・身体所見には異常を認めない。臥位ではまず起こらない。
起立性低血圧
薬剤やニューロパチーなどによる自律神経異常があることが多いが、基礎疾患として糖尿病パーキンソン病などがあることもある。
頸動脈洞性失神
頸動脈洞が過度に過敏な場合、頸部の刺激によって起こる。ネクタイを締めたり、後ろを振り向いたりするだけで起こることもある。50歳以上の男性に多い。頸動脈洞の圧受容器の圧迫によって、副交感神経が興奮し、房室ブロックや洞停止、血管拡張を起こすことによって失神する。
胸腔内圧上昇による失神
遷延する咳発作の持続中や直後にみられる咳失神は、基礎に慢性閉塞性肺疾患を持つ男性に多い。他に、前立腺肥大症や膀胱通過障害を持つ男性に多い、排尿中や排尿後に起こる排尿失神等がある。
過換気症候群
過換気による動脈血炭酸ガス分圧低下により脳血管の収縮が起こり、そのために脳血流が減少して起こる失神である。めまいを起こすが失神にまでは至らないことが多い。
神経原性失神
椎骨脳底動脈循環不全や、脳底動脈型片頭痛でも失神が起こることがある。脳底動脈型片頭痛では、脳幹障害症状や錯乱も見られ、思春期の女性にまれに起こる。
低容量性失神
脱水や出血がある場合は起こりえる。いずれも高齢者に多い。出血の場合はメレナ(出血による黒い便)や腹痛の有無を確認する。

●失神患者の予後

失神の患者は重篤な不整脈がある可能性があるので原則としては入院が必要である。ただし、神経原性失神、起立性低血圧、飲酒時の失神、心因性失神と診断がついていればそのまま帰すことができる。またこれらの診断のみならば予後が変化することはない(見落としがなければ)。高齢者の場合は入念な精査が必要になる場合もあるので、入院を念頭に置いた方が無難だとされている。

失神患者の予後に関して興味深い多変量解析のデータがある。OESIL risk scoreと呼ばれるものであり、失神を起こした患者のリスク因子について述べている。それによると、65歳以上、既往歴で心疾患、前駆症状なし、心電図異常ありがそれぞれリスクとなり、その数によって生存率が分かれる。該当項目が0個ならば1年後死亡率0%、1個ならば0.8%、2個ならば19.6%、 3個ならば34.7%、4個ならば57.1%となっている。

●関連項目




posted by kamiryu07 at 23:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 病名サ行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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