2007年10月07日

気管支喘息

気管支喘息(きかんしぜんそく、Bronchial Asthma)とは、アレルギー反応や細菌・ウイルス感染などが発端となった気管支の炎症が慢性化することで、気道過敏性の亢進、可逆性の気道狭窄を起こし、発作的な喘鳴、咳などの症状をきたす呼吸器疾患。喘息発作時にはこれらの症状が特に激しく発現し、死(喘息死)に至ることもある。単に「喘息」あるいは「ぜんそく」と記す場合、一般的には気管支喘息のことを指す。

なお、うっ血性心不全により喘鳴、呼吸困難といった気管支喘息類似の症状がみられることがあり、そのような場合を心臓喘息と呼ぶことがあるが、気管支喘息とは異なる病態である。

●歴史

喘息という言葉は、ギリシャ語の aazein という“鋭い咳”を意味する言葉に由来する。 この言葉は、紀元前8世紀イリアスに登場するのが最初とされている。そして紀元前4世紀にヒポクラテスは、この病気が仕立て屋、漁師、金細工師に多いこと、気候と関係していること、遺伝的要因がある可能性があることを記載した。2世紀にはガレノスは喘息が気管支の狭窄・閉塞によるものであることを記し、基本病態についての考察が始まった。

その後、喘息についてさまざまな考察、文献が発表されたが、このころまで喘息という言葉は、今日でいう気管支喘息のみならず、呼吸困難をきたすさまざまな病気が含まれていた。今日でいう気管支喘息についての病態にせまるには、17世紀まで待たねばならない。17世紀イタリアの「産業医学の父」ベルナルディーノ・ラマツィーニは、喘息と有機塵との関連を指摘し、またイギリスの医師ジョン・フロイヤーは1698年、A Treatise of the Asthma において気道閉塞の可逆性について記載した。1860年にはイギリスのソルターは著書 On asthma: its pathology and treatment の中で、気道閉塞の可逆性と気道過敏性について述べ、またその後19世紀末から20世紀初頭には、エピネフリンやエフェドリンが開発され、気管支拡張薬が喘息の治療として使用されるようになった。この頃まで喘息の基本病態は可逆性のある気管支収縮であると考えられていた。

1960年代に入り、気管支喘息の基本病態が気道の慢性炎症であることが指摘され始め、1990年イギリス胸部疾患学会 (BTS) の発表した喘息ガイドライン、および1991年アメリカ国立衛生研究所 (NIH) の発表した喘息ガイドラインにおいて、「喘息は慢性の気道炎症である」ことにコンセンサスが得られた。これにより、ステロイド吸入により気道の炎症を抑え、発作を予防するという現在の気管支喘息の治療戦略が完成した。

●分類

幼児期に発症することの多いアトピー型と40歳以上の成人発症に多くみられる非アトピー型の2型がある。

●疫学

2004年の試算で、世界に3億人の喘息患者がおり、年間255,000人が喘息で死亡している。また喘息死の80%以上は低〜中低所得国で発生しており、今後10年間で喘息死はさらに20%増えるだろうと予測されている。喘息の有症率は 1〜18%程度と国によって報告にばらつきがあるが、多少強引にまとめると、先進国で5〜10%程度、発展途上国では1〜4%程度である。

日本では、1996年の統計で、喘息の累積有症率(現症と既往の合計)は、乳幼児5.1%、小児6.4%、成人3.0%(16〜30歳では6.2%)である。1960年代は小児、成人とも有症率は1%程度であったものが、近年増加の傾向にあり、10年の経過で1.5〜2倍程度増加している。日本における喘息による死亡者数と人口10万人あたりの死亡率は、1995年には7,253人 (5.8)、2000年には4,473人 (3.6)、2001年には4,014人 (3.2)、2002年には3,771人 (3.0)、2003年には3,701人 (2.9)、2004年には3,283人 (2.6) と、年々低下傾向にある(厚生労働省人口動態統計より)。死亡者の約半数は、重度の発作を軽発作だと思い適切な治療が遅れた、あるいは、されなかった事が原因であるといわれている。

●症状

環境刺激因子(アレルゲン)、寒気、運動、ストレスなどの種々の刺激が引き金となり、これらに対する過敏反応として、気管支平滑筋、気道粘膜の浮腫、気道分泌亢進などにより気道の狭窄・閉塞が起こる。気道狭窄によって、喘鳴、息切れ、咳などの症状を認める。喘息発作時にはこれらの症状が激しく発現し、呼吸困難過呼吸、酸欠、体力の激しい消耗などを伴い、時には死に至ることもある。

アトピー型の喘息患者が発作を引き起こすのはI型アレルギーにより化学伝達物質が発生するためである。その誘因は、細菌・ウイルス感染、過労、ハウスダスト(埃・ダニ・花粉・カビなど)・食物・薬物などのアレルゲン、運動、タバコ、アルコール、気圧変化、精神的要因などさまざまである。

小児喘息において、ダニは枕投げなどで舞い上がり気管支喘息を悪化させることが知られている。しかし、シドニーの調査により発生率には影響しないと報告された。かつて言われていた掃除の徹底は、ダニを完全に排除することは不可能なため、通常の掃除と同じでよいとされている。

一方、非アトピー型の気管支喘息の病態生理は、まだはっきりしていない。だが、はっきりとはしていないが、十分な投薬を受けてもコントロールがつかない喘息では、呼吸器へのウイルスなどの持続感染が関係している可能性が出てきている。このような場合、心理面に原因がある訳ではなく、学校、会社などの日常生活はもちろん、軽い散歩でも慢性の炎症が悪化・難治化していき、また、過労になればなるほど悪化する。

喘息死の危険因子

  • 15歳以上
  • 難治性喘息
  • 重篤発作の既往
  • MDI・ネブライザー過度依存傾向
  • β2刺激薬のみによるネブライザーの自宅利用
  • 不規則な治療
  • 頻回の発作による救急室受診
  • 重篤な薬物・食物アレルギー
  • 合併症(乳幼児の下気道感染症気胸・10歳以上の右心肥大)
  • 外科的緊急手術
  • 欠損・崩壊家庭、独居
  • こだわらない、活動的性格による過労や疲労の蓄積
  • 患者を取り巻く医療環境の不整備

●小児喘息

小児喘息(しょうにぜんそく、bronchial asthma;BA)は成長とともに軽快する場合がほとんどである。まれに成人喘息に移行する場合がある。小児喘息の既往があったとしても、成人喘息患者のような薬物の制限はない。小児期に喘鳴が認められる場合はウイルス感染、アレルギー、異物の可能性がある。小児喘息の診断には、他疾患の除外が必要である。2歳から3歳のころ頻繁に喘鳴を繰り返す 幼児は小児喘息に移行するリスクが高いと考えられている。

major criteria
  1. 医師によって診断された両親いずれかの喘息の既往。
  2. 医師によって診断されたアトピー性皮膚炎
minor criteria
  1. 医師によって診断されたアレルギー性鼻炎
  2. 上気道感染と関連しない喘鳴。
  3. 4%以上の好酸球の増加。

major criteriaひとつまたはminor criteria2つで小児喘息の確率は76%である。逆に満たさなければ5%の確率となる。

小児喘息のガイドラインとしてはJPGL2005が知られている。春先や秋口などが発作の好発時期である。3歳から5歳の発症が多い。β2刺激薬の吸入とステロイドの全身投与が基本となる。アミノフィリンは嘔吐といった副作用をはじめ、血中濃度の調整が難しく、安全性、簡便性を考慮すると消極的になる。吸入は吸入器(定量噴露吸入器とドライパウダー吸入器)とネブライザーによる吸入が知られている。吸入薬の量は小児であろうが成人であろうが変化がないのが一般的である。これは成長するほど上手に吸入できる傾向があるため、末梢気道に達する薬物量が増えるためである。ネブライザー治療に影響を与える因子としては呼吸パターン、口呼吸か鼻呼吸か、気道狭窄病変の程度、人口気道の存在などが挙げられている。

●検査

理学所見
  呼吸音・・・wheeze(笛声音)が発作時に聴取されることが多い。ただし必ず発作時に喘鳴が聴取されるとは限らない。
  呼吸数増多(英:tachypnea)やチアノーゼ(英:cyanosis)がみられることもある。

気道可逆性試験
  気管支喘息の診断には、気道閉塞の可逆性を証明することが重要である。β2刺激薬吸入前後、あるいは2〜3週間のステロイド内服・吸入前後で呼吸機能検査を行い、1秒量が200ml以上かつ12%以上改善した場合、気道可逆性ありと診断する。ただし、検査時に喘息発作が起きていない場合、気道の可逆性を証明できないこともあるため、自宅にピークフローメーターを持って帰ってもらい、ピークフロー値に20%以上の日内変動がみられた場合も気道可逆性ありと診断できる。

胸部X線写真
  通常は異常を認めない。喘鳴や気道狭窄を来す他の疾患(腫瘍肺炎など)や心不全を除外することが重要である。

血液検査
  末梢血中好酸球の増加や、非特異的IgE値の上昇がみられれば、本疾患の補助診断となりうる。また、アレルゲンを調べるために、アレルゲン特異的IgE抗体を測定する。

病理学的所見
  好酸球浸潤と平滑筋肥大が認められる。

●治療

薬物治療

気管支喘息治療薬は「長期管理薬」(コントローラー)と「発作治療薬」(リリーバー)に大別される。発作が起きないように予防的に長期管理薬を使用し、急性発作が起きた時に発作治療薬で発作を止める。発作治療薬を使う頻度が多いほど喘息の状態は悪いと考えられ、長期管理薬をいかに用いて発作治療薬の使用量を抑えるかということが治療の一つの目標となる。長期管理薬では、吸入ステロイド薬が最も重要な基本薬剤であり、これにより気管支喘息の本体である気道の炎症を抑えることが気管支喘息治療の根幹である。重症度に応じて吸入ステロイドの増量、経口ステロイド、長時間作動型β2刺激薬(吸入薬・貼り薬)、抗アレルギー薬、抗コリン剤などを併用する。長期管理薬を使用しても発作が起こった場合は、発作治療薬を使用する。発作治療薬には短時間作動型β2刺激薬、ステロイド剤の点滴などが使われる。

1997年、β刺激薬であるベロテックエロゾル®(臭化水素酸フェノテロール)の乱用による死亡者増加が日本において大きな問題となった。これはβ2刺激薬の副作用によるものとは言えず、β2刺激薬の吸入により一時的に症状が改善するために、大発作に至る発作でも病院の受診が遅れたことが主因と考えられている。

吸入ステロイド
  強力な抗炎症作用を持ち、コントローラーとして用いられる。起こってしまった発作を改善させる作用は期待できない。吸入ステロイドとしてはバイオアベイラビリティ(吸収されて血流中に残り、全身に分布する量)が低い薬剤が用いられるため、全身性の副作用(高血圧、肥満、骨粗しょう症、身長の伸びの抑制など)はほとんどないといえる。副作用としては、嗄声、口腔内カンジダなど。吸入後はうがいをして口腔内から薬剤を洗い流す必要がある。フルタイドディスカス・ロタディスク®、パルミコート®、タウナス®といったドライパウダー製剤、キュバール®、フルタイドエアー®といったガス噴霧製剤、さらにドライパウダー製剤などが上手に吸入できない小児のために、パルミコート®にはネブライザーで吸入できる吸入液がある。

テオフィリン製剤
  テオフィリンは気管支拡張作用と抗炎症作用を併せ持つ。テオフィリン関連痙攣と呼ばれる副作用が報告され、日本のガイドラインでは小児に対してはその位置づけが後退傾向にある。

β2刺激薬
抗ロイコトリエン薬
抗アレルギー薬
経口ステロイド薬

携帯用吸入器

吸入ステロイド薬や気管支拡張剤といった吸入薬には、フロンが含まれるエアロゾル製品があったため、これらは代替フロンなどへ変更された。代替フロンを使用した製品も、2020年までにドライパウダー製剤へ一本化される。ドライパウダー製剤は完全に自力で吸わなければならないため、高齢者や年少児、重篤な発作が起こっている場合等吸気初速が遅い患者では吸えない可能性があることが問題となる。また、器具によっては吸入器を使った感覚が乏しいものもあり、稀に空になった製品を気づかずに使用し続けてしまう患者がいるが、ドライパウダー製剤はカウンター付きの物がある等、残りの使用回数を把握しやすくしている。エアロゾル剤は中身が見えない為、外観では残り使用可能回数が分からず、使用する際に初めて空と気づくことや、また薬効成分の含まれないガスのみを吸入することがあり問題となる。薬剤によっては吸入した際の違和感、味覚が残るため、それを敬遠する患者もいる。

その他の治療

喘息体操や乾布摩擦、体力づくりが効果を発揮する患者もいる。ただし、呼吸筋を鍛えたことにより病状が良くなったと感じるため(ピークフロー値の上昇)で、炎症が治まったわけではない。また、古くから水泳によって改善するといったことも言われているが、上記の乾布摩擦と同じ理屈であり、場合によってはプールの塩素によって更に悪化することもあり注意が必要である。水泳による疲労で喘息を発病した患者もいる。

直接の治療行為には該当しないが、ピークフローメーターにより、日頃のピークフロー値の記録をしておくことで自覚症状のない軽い発作を発見できたり、発作がおきやすい時期、時間帯等を把握しやすくなるため、喘息の管理に有効である。

精神的要因で発作を起こすごく一部の患者には、安定剤や心理療法が有効な場合がある。しかし、喘鳴が聞こえないが呼吸機能は低下している患者や、呼吸機能や酸素飽和度に異常はなくても炎症の悪化により一時的に息苦しい患者、ブロンコレアで痰が大量に詰まり息苦しさを訴えている患者などの場合、それを精神的な訴えととらえ、心療内科に転院させて安定剤や心理療法で治療しても無効である。また、難治性喘息に心理療法を施すことも基本的に無効である。難治性喘息患者にとっては、日常生活自体が慢性炎症の悪化要因であることが多く、無理を軽減することで緩解したと勘違いしている場合もある。

喘息が治る事を過剰に宣伝し、大量の本やグッズなどを買わせる医師や業者がいるので注意が必要。安易にこれらの医師や業者を信じ、自然治癒力や自立神経のコントロールに固執した結果、発病初期や炎症の悪化時に吸入ステロイドや内服のステロイドによる十分な抗炎症治療を受けず、難治化していき、吸入ステロイドを中心とした濃厚な治療を受けてもコントロールできない患者もいる。これらの難治性喘息患者の中には精神的な要因をなくせば喘息は治ると信じ、主張している者もいる。しかし、難治性喘息患者の呼吸器にはおそらくウイルスなどが持続感染しており、慢性炎症は常に刺激を受けている過敏な状態であり、日常生活自体が炎症の悪化要因となってしまうので、その事と精神的な要因との区別がついていない可能性が高い。難治性喘息患者の慢性炎症を完全に抑える事は今の医学では非常に難しく、おそらく絶対安静下で大量のステロイドを長期に投与すれば可能かもしれないが、現実的には発作をうまく切り抜けていくように治療するしかない。慢性炎症を抑えられずにある程度の年月が経つとリモデリングがおきてさらに難治化していく。副作用のない内服のステロイド、抗ウイルス薬、リモデリング治療薬の存在しない今の医学では全ての喘息を治す事は不可能。治る見込みがあるのはアトピー要因や過労、風邪(一過性で完治した場合)で発病した患者などのみで吸入ステロイドを中心とした薬物治療で完全にコントロールでき、その中には薬物治療をやめる事ができる患者もいる。

高容量の吸入ステロイド、内服のステロイドの常用を含めた一般的な喘息治療でコントロールが不可能な場合、保険適用外の免疫抑制薬を使う事もある。コントロールが不可能な原因として、呼吸器への複数のウイルスによる混合持続感染やリモデリングなどが考えられるが、はっきりと医学的に証明された訳ではない。

慢性呼吸不全の患者には在宅酸素療法を行う。この場合、身体障害者手帳が交付される。

●気管支喘息の亜型

アスピリン喘息

アスピリンなどの非ステロイド系抗炎症薬の服用から数分〜1時間後に鼻汁過多、鼻閉、喘息発作が起こる。

咳喘息

咳喘息(cough variant asthma; CVA)の症状は、慢性に咳が出る。呼吸困難・喘鳴はない。

●気管支喘息と鑑別を要する疾患

慢性閉塞性肺疾患 (Chronic Obstructive Pulmonary Disease;COPD)
気管支喘息と同様に、特に感冒罹患時に喘鳴、呼吸困難をきたすことがある。気管支喘息よりも気管支拡張剤に対する反応が悪く、喫煙との関連が深く、また高齢者に多く見られることが異なる点である。
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症 (Allergic BronchoPulmonary Aspergillosis;ABPA)
気管支喘息患者の1%程度に見られると報告される。真菌の一つであるアスペルギルスに対するアレルギーにより起こり、喀痰中の粘液栓、中枢性気管支拡張、肺浸潤影などを特徴とする。ロイコトリエン拮抗薬との関連が指摘されている。
アレルギー性肉芽腫性血管炎(チャーグ・ストラウス症候群)
気管支喘息患者の5000人に1人程度に発症すると報告される。病気の本体は全身の小動脈〜細動脈の炎症(血管炎)であり、発熱、手足の痺れ(末梢神経炎)、筋肉痛関節痛など多彩な症状を呈する。
ブロンコレア(気管支漏)
卵の白身のような外観を呈した喀痰を、1日に100ml以上、難治時に喀出する病態。患者はかなりの苦痛を伴うが、ほとんどの場合心理的なものと判断され、診断も治療も受けられず難治化していく。安易な去痰剤や不十分な吸入ステロイドのみでの治療、その場しのぎの一時的な内服のステロイドの投与は治療の遅れ、難治化につながる。ステロイドの副作用を強調しブロンコレアを軽視した医師ではなく、ブロンコレアの専門医による適切な診断と専門医の下での内服のステロイドでの治療が必要。発病初期に十分な治療を受ける事ができた場合を除き、長期入院して絶対安静下での大量のステロイドを用いた治療となる。治療が遅れるほどステロイドの使用量が増える。喘息にブロンコレアが合併すると難治性喘息に移行する事が多い。

●関連項目


posted by kamiryu07 at 17:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 病名カ行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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