2016年02月06日

花粉症(1)

花粉症(かふんしょう、hay fever / pollen allergy / pollen disease, 医:pollinosis または pollenosis )とはI型アレルギー(いちがたアレルギー)に分類される疾患の一つ。植物の花粉が、鼻や目などの粘膜に接触することによって引き起こされ、発作性反復性のくしゃみ、鼻水、鼻詰まり、目のかゆみなどの一連の症状が特徴的な症候群のことである。枯草熱(こそうねつ)とも言われる。

くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどはアレルギー性鼻炎鼻アレルギー)の症状であり、花粉の飛散期に一致して症状が起こるため、季節性アレルギー性鼻炎(対:通年性アレルギー性鼻炎)に分類され、その代表的なものとなっている。

目の痒みや流涙などはアレルギー性結膜炎の症状であり、鼻炎同様に季節性アレルギー性結膜炎に分類される。

広義には花粉によるアレルギー症状すべてを指すこともあるが、一般的には上記のように鼻および目症状を主訴とするものを一般的に呼ぶことがある。

また、狭義には鼻症状のみを指し、目症状は結膜花粉症(または花粉性結膜炎)、皮膚症状は花粉症皮膚炎(または花粉皮膚炎)、喘息の症状は花粉喘息、喉の不快感などの症状はアレルギー性咽喉頭炎などと別に呼ぶことがある。

現在の日本ではスギ花粉によるものが大多数であり、単に花粉症といった場合、スギ花粉症のことを指していることが多い。そのため、本項目の説明もスギ花粉症について、主に書かれている。

この記事では、hay fever=枯草熱、pollinosis=花粉症というように、古語・現代語、一般名・疾病名、の観点で呼び分けることもある。枯草熱も医薬品等の効能に表記されるれっきとした医学(医療)用語であるが、ここでは花粉症で統一する。なお、pollen allergy は花粉アレルギー、pollen disease は花粉病(花粉による疾患)の意である。


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●歴史

世界史

花粉症がいつ頃出現したかについては、花粉が肉眼で見ることができないこともあって明確には判っていない。紀元前500年ごろのヒポクラテスの著書『空気、水、場所について』の第三節にさまざまな風土病が述べられているが、季節と風に関係しており、体質が影響し、転地療養が効果的であるということから、現在でいうアレルギー(季節的アレルギー)の機序を考えてよさそうなもの、すなわち現在でいう花粉症もあるかもしれないとの考えもある。ローマ帝国時代の医師ガレヌス(紀元前130年〜200年)も花粉症らしい疾患について述べており、紀元前100年ごろの中国の記録にも、春になると鼻水および鼻詰まりがよくあるとのことが示されているという。西暦1000年ごろのアラビアの医師によって、花粉症らしい疾患とその治療法が記録されているともいわれる。

より近代医学的な記録で最古のものは、1565年(一説には1533年)のイタリアの医師 Leonardo Botallus によるものとされる。「バラ熱(Rose cold または Rose fever)」と呼ばれる症状で、記録によれば、その患者はバラの花の香りをかぐとくしゃみやかゆみ、頭痛などの症状をおこすという。原則的にバラは花粉を飛散させないため、花粉症であるとは言い難いが、現在でも Rose fever は「晩春から初夏の鼻炎」様の意味で Hay fever 同様に用いられることがある。

花粉症であることが確かな最初の臨床記録は、1819年にイギリスの John Bostock が、春・秋の鼻症状、喘息、流涙など、牧草の干し草と接触することで発症すると考えられていた Hay fever と呼ばれる夏風邪様症状について報告したものである。彼自身も長年にわたって症状に苦しめられたというが、有効な治療法は発見できなかったという。彼は最初これを「夏季カタル」と呼んだ。発熱(fever)は主要な症状ではないので、粘膜の炎症を示すカタルの方が適切ではあった。この報告の後しばらくの間、この症状は「Bostockのカタル」と呼ばれたと言われる(なお、 Hay fever は枯草熱と訳されているが、字義通りに解釈するのであれば、干し草熱とした方が適切であった。Hay とはイネ科の牧草 grass の干し草を指すからである)。1831年には同じくイギリスの J.Elliotson により、証明はなされなかったが花粉が原因であろうとの推定がなされた。そして1872年、北アメリカでブタクサが Hay fever の原因であるという報告がなされた。ブタクサは Hay ではないが、その当時すでに Hay fever という名称は定着していたと考えられる。

その後、イギリスの Charles H. Blackley によって、 Hay fever は気温の変化あるいは花粉が発する刺激性のにおいや毒素などが原因とする考えが、実験的に否定された。彼は空中花粉の測定、鼻誘発試験や皮膚試験など、現在でも通用する試験を行ってイネ科花粉症を実証し、遅発相反応にさえ言及した著書『枯草熱あるいは枯草喘息の病因の実験的研究』を1873年に著した。これにより Hay fever は Pollinosis (花粉症)と呼ばれるようになった( pollen は花粉のこと)。これらのことから、自らも花粉症であった Blackley は花粉症の父と呼ばれている。しかし、アレルギーという概念が成立するには20世紀になるまで待たなければいけなかったため、この段階では花粉に過敏に反応する人とそうでない人がいるということしか分からなかった。

日本史

日本においては、1960年代に次々と報告されたブタクサ、カモガヤ、スギ、ヨモギなどによるものが花粉症の始まりである。しかし、その正確な出現時期は判っていない。

たとえばスギ花粉症の発見者である斎藤洋三(当時は東京医科歯科大学所属)は、1963年に鼻や目にアレルギー症状を呈する患者を多く診察したのが花粉症に気付くきっかけとなったというが、過去の記録を調べ、毎年同時期に患者が急増することを確認している。また、1989年に65歳以上の耳鼻咽喉科医師に対してアンケートを行った結果、初めてスギ花粉症と思われる患者に接したのは1945年以前であるとの回答が4.7%あったなど、総合的にみてスギ花粉症の「発見」以前に患者に接していた医師は回答者の4分の1に達したとの調査がある。さらに、高齢の患者を調べたところ、戦前の1940年以前に発症したとみられる患者もいた。

1935年と1939年には空中花粉の測定が行われ、空中花粉数は少なくないが花粉症の原因となる花粉はきわめて少ないと報告された。戦後、進駐軍の軍医により調査がなされ、気候風土などの関係により、日本でのブタクサおよびイネ科の花粉はアレルゲンとして重要ではないと結論した報告が1948年になされた。これらにより、日本における花粉症の研究および患者の発見・報告等が遅れたという指摘がある(1939年の米国帰国者の症例報告では、当地において「バラヒーバー」と診断されたと記録されている。前述の「バラ熱」のことである)。

1960年後半からおよそ10年は帰化植物であるブタクサによる花粉症が多かったが、1970年代中頃からスギ花粉症患者が急増した。特に関東地方共通のできごととして1976年に第1回目の大飛散があり、その後1979年、1982年にもスギ花粉の大量飛散と患者の大量発症があり、全国的ではないにしろ、ほぼこの時期に社会問題として認知されるに至った。

原則的に自然治癒は期待できないため、毎年のように患者数は累積し、現在では花粉症といえばスギ花粉症を指すと思われるほどになっている。花粉症のおよそ80%はスギ花粉症といわれ、新たな国民病とも呼ばれる。

なお、本邦初の花粉症の報告は、1960年の荒木によるブタクサ花粉症であり、次いで1964年の杉田・降矢によるカモガヤ花粉症、堀口・斎藤によるスギ花粉症、1965年の寺尾・信太によるイネ科花粉症、佐藤によるイタリアンライグラス(ネズミムギ)花粉症、1967年の我妻によるヨモギ花粉症などの順である(報告年は文献により多少異なるが、初例報告か完成度を高めた研究報告かなど、取りまとめる際の観点の違いによると思われる)。

2003年12月現在までに報告されている花粉症(花粉喘息等も含む)は、一般的なものや職業性の特殊なものを含めて61種類となっている(1998年2月現在で80種類との説もある)。

●疫学

患者数

現在、日本国民の15%以上が花粉症であると言われる。環境省は1998年の推計として16%という数字を挙げている。だが、大規模な疫学調査は実際には行われておらず、その実態は推測によるしかない。

1994年の花粉症を含めたアレルギー性鼻炎の調査では、その患者はおよそ1800〜2300万人と推定された。

信頼性に問題があるため、あくまでも参考値ではあるが、2005年末から2006年にかけて行われた首都圏8都県市によるアンケートでは、花粉症と診断されている人が21%、自覚症状からそう思うという人が19%、すなわち花粉症患者は40%という数値が出されている。また、ロート製薬によるアンケートでは、16歳未満の3割が花粉症と考えられるという。

その他、病院への受診者の推移などから、1970年代に患者数は3〜4倍に増加したとの報告や、最近10年で患者数が倍増したなど、さまざまなデータがある。しかし、1990年代以降の患者数の増加は顕著ではなく、今後もそう急激な増加はないだろうと考えられている。

医療費等

使われる医療費は、1994年の推計では年間1200〜1500億円とされた。1998年の調査では、有病率10%とした場合の年間医療費が2860億円 、労働損失が年間650億円と推定された。

なお、第一生命経済研究所の試算によれば、患者が花粉症対策に用いる費用(俗に花粉症特需といわれる)は639億円に上るが、シーズン中の外出などを控えるために、1〜3月の個人消費が7549億円減少するという(ただし、これはスギ花粉の大飛散があった2005年の場合である)。

年齢

スギ花粉症では、一般に30〜50歳代の患者が多いと言われている。

地域差

最近はスギがない沖縄県や北海道へ、花粉を避けるための短〜中期の旅行に出かける患者が増えているという(俗に花粉疎開と呼ばれる)。旅行会社がそうしたツアーを売り出すことも行われており、観光資源の一つとして誘致に名乗りをあげる地域もある。患者が移住した例も報道された。医学的にみれば転地療養といえる。

男女差

一般に、小児期には男に多く、成人では女に多い傾向があると言われる。

自然治癒率

自然治癒率についての確立した知見はないが、概ね1〜2割と言われる(治癒とは、臨床的に3シーズン連続して症状を呈さない状況を言う)。

●花粉症の原因植物

花粉症を引き起こす植物は60種以上が報告されている。報告されていないものも含めればさらに多いであろうということは容易に想像できる。

春先に大量に飛散するスギの花粉が原因であるものが多いが、ヒノキ科、ブタクサ、マツ、イネ科、ヨモギなど他の植物の花粉によるアレルギーを持つ人も多くいる。

特にスギ花粉症患者の7〜8割程度はヒノキ花粉にも反応する(よって、スギ・ヒノキ花粉症と呼んだほうがよいとの指摘もある)。また、「イネ科」と総称されることからもわかるとおり、その花粉症の患者は個別の植物ではなくいくつかのイネ科植物の花粉に反応することが知られている(○○科と総称されるのは光学顕微鏡による肉眼観察では区別がつかないためでもある)。これらは花粉に含まれているアレルゲンがきわめて類似なため、交差反応を起こしているからである(個別の花粉アレルゲンに重複感作されている場合ももちろん考えられる)。

スギの少ない北海道ではスギ花粉症は少なく、イネ科やシラカバ(シラカンバ)による花粉症が多いなど、地域差もある。中国地方、ことに六甲山周辺において、大量に植樹されたオオバヤシャブシによる花粉症が地域の社会問題になったこともある。北陸の稲作が盛んな地域では、他地域よりもハンノキ花粉症が多い(シラカバ、ハンノキ、ヤシャブシ、オバヤシャブシなどは口腔アレルギー症候群を起こしやすい)。

アメリカではブタクサ、ヨーロッパではイネ科の花粉症が多い。北欧ではシラカバ等カバノキ科の花粉症が多い。

花粉症の原因となる植物は、風に花粉を乗せて飛ばす風媒花が一般的であるが、職業性の花粉症にみられるように、その花粉を大量かつ長期にわたって吸い込んでいれば、どんな植物の花粉でも花粉症になり得ると考えられている。職業性の花粉症は果樹の人工受粉に従事する人など栽培農家によくみられるが、華道家が発症した例もある。

2〜4月はスギ、さらに少し症状が続くようならヒノキ(およびヒノキ科)も疑ったほうがよい。初夏から夏(または秋)は各種のイネ科植物(特にカモガヤ、オオアワガエリ、ホソムギ等の帰化植物。秋は主に在来種の開花時期だがあまり大きな問題とはなっていない)、秋はブタクサやオオブタクサ(クワモドキ)、ヨモギなどが多いが、地域や年によって飛散時期や量は異なる。スギにおいては、夏の間に大量につぼみつけた年は、晩秋にも症状をひきおこすだけの花粉が飛散することもあるのが確認されている(それが多い場合は、翌年は大飛散となる)。早春期、スギに先駆けて花粉を飛ばすハンノキなどもあり、早期に症状が出る場合、地域によってはこれを疑ってみる必要があるかもしれない。北海道のシラカバは5月に最盛期となる。

なお、セイタカアワダチソウ(セイタカアキノキリンソウ)の俗名がブタクサということもあり、ごく一部で混乱が生じている。実際、過去に花粉症の原因植物と言われたこともあったが、セイタカアワダチソウは虫媒花のため、原則的には花粉は飛ばさない。ただし、大群落を作ることが多く、こぼれた花粉が周辺に飛散してしまうことはある。花粉症の原因にもなり得る。同じキク科のため、ブタクサやヨモギ等の花粉症の人は注意が必要である。

大群落という点では、果樹園や田畑の周辺に居住する人も要注意であるが、日本人の主食となっている米をとるイネは、意外にも花粉症の原因になることは少ない。開花期が早朝でごく短く、水田で栽培されるためである。

これらの原因花粉をつきとめるためにはアレルゲンの検査が必要であるが、身近にその植物があれば患者自身でもわかりやすい。花粉の観測を行っている施設は多いが、そのかなりはスギ・ヒノキの飛散期間のみであり、通年で行っていたとしても、ほとんどはビルの屋上などに装置を設置しているため、草花花粉についての正しい飛散情報は得ることがむずかしい。また、飛散範囲が局地的であることも、草花花粉の飛散情報を得るのが難しい原因となっている。

患者レベルにおいては、季節が移って飛散花粉の種類が異なると症状の出方も異なるということがよくいわれる。しかしながら、それぞれの植物によりアレルゲン性の高さが異なるのは事実だが、症状が強く出る部位が異なるなどのことが本当かどうかは調べられていない。

●スギ花粉について

概要

スギ花粉はおよそ25〜35マイクロメートルというサイズで、風に乗って遠距離を飛散する。10キロメートル以上、ときには300キロメートル以上も離れた場所から飛んでくることが知られている。だが、地形などによって空中花粉数は異なってくる。たとえば関東平野は周囲を山地に囲まれているため、どちらから風が吹いても大量の花粉が飛散してくるといわれている。片側が海に面している地域であれば、原則的には海風のときは花粉は飛散してこない。

飛散の定義

「飛散開始日」とは、その日の1平方センチメートルあたりの花粉観測数が連続して1個以上になった最初の日をさし、実際には飛散開始日よりも前に少量の飛散は始まっている。敏感な患者はそれより前に発症するというが、現実にはかなりの率の患者が症状を呈しているという調査もあり、「飛散開始日」の意義に疑問を呈する見方もある。

花粉飛散量

スギ花粉の観測が始まったのは1965年、神奈川県相模原でのことだが、現在の花粉量は当時の2〜3倍程度となっている。スギ花粉症が社会問題化したころである1982年の飛散量は1965年の約4倍に達した。発症者が増えた原因の第一は、花粉飛散量が増え、それに曝露された者が増えたためであることは明らかである(上記の地域別有症率との相関もこれを支持する)。

飛散量の増加の原因は、戦後、建材および治水・治山の目的で全国に広くスギが植林され、それらが1960年代後半より花粉生産力の強い樹齢30年程度に達し始めたためである。そうした花粉生産量の多いスギ林の面積は増え続けている(社会的側面の項を参照)。

近年では飛散期間の長期化の指摘もある。これは、やや遅れて植林されたり、成長が遅れていた標高の高い地域のスギの開花が、平地での開花に引き続いておこるためと考えられている。温暖化によって、飛散開始が早まっている傾向があるとの指摘もある。

スギの着花量は夏の天候に左右される。しかし、必ずしもそればかりの影響のみにては決まらず、果樹などにおいて表作・裏作があるのと同様に、飛散量は1年おきに増減を繰り返すか、2〜3年で増減を繰り返すパターンがよくみられる。ただし、それに当てはまらない場合もあり、たとえば関東地方における2000年から2003年における、4年連続の大飛散のようなこともある。近年においては、1995年および2005年が記録すべき大量飛散の年であった。

花粉予測と情報

日本気象協会が日本初の一般向けスギ花粉情報を開始したのは1987年3月9日である。1985年より行われている東京都衛生局の予測等をもとに、東京都心と多摩地域向けに毎日の飛散予報を出すようになった。同年には京都市、仙台市なども住民サービスとして情報を出すようになっている。現在では、新聞・テレビ(天気予報など)・インターネット(携帯電話、電子メール含む)・テレホンサービスなどで、地域ごとの毎日の飛散予測が出されている。

シーズン(スギ花粉症の場合)の前年の晩秋にスギのつぼみのようすなどから飛散量の予測が出される。その他、気候(気象)の影響なども影響し、量や飛散開始時期などに差が出る。

シーズン前には平年に比較して飛散量が多いか少ないかの予測も出されるが、平年とは過去10年平均であり、その平均値そのものが増加し続けているため、予測値の解釈には注意が必要である。たとえば2006年現在で「平年の60%の飛散量」と言った場合、それは10年前の平均値とほぼ等しい。また、東京の例でいえば、2006年現在の平年値は、前述の2000年から2003年における4年連続の大飛散とほとんど等しい。すなわち、平年より少ないとの予報であっても、決して絶対量が少ないとは限らない。

こうした「今年は多い/少ない」の予測、たとえば「少ない」との予測が出されると、患者の多くは安心してしまい、対策がおろそかになることがある。さらに、たとえ「今シーズンは少ない」との予測が出されても、それは毎日の飛散量が少ないことを保証するものではないので注意が必要である。

大量飛散の影響・問題点

大量飛散の翌年は、たとえ飛散量がある程度少なくとも、症状が軽くてすむ患者ばかりではないことが知られている。病院への受診者数なども、飛散量から予測されるよりも多い傾向がある。大量飛散により重症化し、過敏性が高まったまま翌シーズンを迎える患者が多いためと考えられている。

林業におけるスギ伐採量の見通しや地球温暖化など気象の影響を考慮すると、ゆるやかではあるが今後も花粉の飛散量は増え続けると考えられている。村山による予測によれば、2050年には現在の1.7倍(最近1.61倍という数字も出された)まで花粉量が増え、患者数も1.4倍になるだろうと見積もられている。 林業資源として、植生を無視してスギばかりを植林した弊害と指摘する説もある。

●ヒノキ花粉について

スギに10年ほど遅れて植林が広まったヒノキも、スギ同様に花粉生産力が強まった樹齢に次々と達している。ヒノキの開花期はスギより遅れるものの、やや重なるため、患者が症状を呈する期間も長引く傾向がある。(前述のようにスギ花粉症患者のかなりはヒノキ花粉にも反応する)。

ヒノキは関東以西(中部〜関西)に多く植えられたといわれるが、その地域では、関東などとは違う系統のスギが多く植えられたという指摘もある。それは樹齢30年ごろから多く花粉を飛ばす早生品種ではなく、樹齢50年ごろから多く花粉を飛ばす晩生品種といわれており、それが真実であれば関東以西ではヒノキのみならずスギ花粉もさらに増加する心配がある。また、品種によって花粉生産量が大きく異なり、たとえば九州のスギは花粉が少ないことなどが知られている(上記の県別有症率を参照)。

●花粉症の症状

一般的症状

主な症状は、くしゃみ鼻水鼻づまり目のかゆみとされ、一般に花粉症の4大症状と呼ばれる。(耳鼻科領域においては、目のかゆみを除外したものを3大症状と呼んでいる)。

二次症状

  • 鼻詰まりによって匂いが分からなくなることがある。それにより口呼吸をするため喉が障害されることも多い。
  • 後鼻漏と呼ばれる喉に流れる鼻汁により喉がイガイガしたり、咳や痰が出るなどのこともある。
  • 頻度は低いが喘息に似た症状が出ることもあり、すでに喘息患者である場合はその発作が起きることもある。
  • 目の異物感や流涙、目やにが出現する。不適切にコンタクトレンズを使用している場合、巨大乳頭結膜炎などにもなり得る。
  • 耳の奥の痒みが出現する。小児の場合、痒みなどから鼻をいじることが多く、鼻血の原因になることも少なからずある。
  • 副鼻腔炎などが合併することがあるので注意が必要である。これは風邪と同様に鼻汁が粘度の高いものになり、眉間や目の下など、顔の奥の部分に重い痛みなどを感じることが特徴であるが、そうした症状を感じないこともある。後鼻漏もおきやすい。後鼻漏による鼻水が気道に入ると気管支炎の原因ともなり得る。検査方法も適した薬剤も異なるので、症状が変化した場合には早めに医療機関に受診することがだいじである。特に副鼻腔炎は小児に多いといわれる。
  • 頭痛や頭重感、微熱やだるさなどの全身症状を呈する場合もある。ニセアカシアなどの花粉症では症状が比較的重く、これらの症状を示す場合が多い。
  • 口から入った花粉や花粉を含んだ鼻水を飲み込むことにより、消化器症状が出る場合もある。
  • 目の周りや目の下、首筋などによくみられる炎症などの皮膚症状は、花粉症皮膚炎と呼ばれることもある。また、アトピー性皮膚炎の患者が、花粉症シーズンにかゆみが増すことも知られている。いずれも花粉による症状であれば、花粉の飛散期に一致して症状がおこる。
  • 花粉の種類と量によっては、まれにアナフィラキシーショックを起こすこともある。
  • 睡眠不足、集中力欠如、イライラ感、食欲不振等も生じてくる。うつなど心理的影響を呈する場合もある。

以上によりバイタリティー(生命力)は大きく低下し、QOL(クオリティー・オブ・ライフ)は障害される。特にQOLに大きく影響するのは鼻詰まりとされている。

鑑別症状

感冒
花粉症は、水のようなサラサラした鼻水と目のかゆみが特徴的であり、感染症である鼻風邪との鑑別点になる。鼻風邪であれば、一般的には目のかゆみはなく、数日のうちに鼻水は粘性の高いものになり、さらに黄色や緑など色のついたものとなる。また、屋外のほうが花粉が多いため、おのずと症状も強くなるという点も風邪との違いである。
他のアレルギー
非常に似通った症状ではあるが、屋内のほうが症状が強い場合、ほこりなどのハウスダスト等によるアレルギー性鼻炎を疑ったほうがよい(一般に「アレルギー性鼻炎」と言った場合、こうしたハウスダスト等による通年のアレルギー性鼻炎のことを指すことが多い)。

スギ花粉飛散の前から症状を呈する患者も多くいるが、実際にごく微量の花粉に反応している場合だけでなく、季節特有の乾燥や冷気によるものもあると考えられている。患者は自己診断に頼らず、専門家の診断を受けることが望ましい。

その他の特徴

症状には個人差がある
患者により、くしゃみや鼻水がひどいタイプと、鼻詰まりがひどいタイプ、両方ともひどいタイプなどに分けられる。症状の程度も個人により異なる。そうした症状のタイプと重症度により、適した治療(薬剤)なども異なってくる。目の症状の重症度などによっても治療法は異なる。これらの重症度などはくしゃみの頻度などを花粉症日記に記録してスコア化することによって調べることができる。同じ花粉飛散量であっても、このように症状の程度が異なるほか、どの程度の花粉で症状が出るかの敏感さも個人によって異なる。
花粉飛散量と症状は相関しない
花粉飛散量が2倍になったからといって、症状も2倍ひどくなるわけではない。簡単には、飛散量が1桁上がると症状は1段階ひどくなると思って大きな間違いではない。多量の花粉に曝露されると症状も悪化するが、少量であっても連続すると重症化していくのも特徴である。また、いったん最重症化すると、少々の花粉量の変化では症状は変化しなくなる傾向があり、花粉飛散期が終了しても、症状はなかなか改善しない。
モーニングアタックを起こすことがある
目覚めのときに強く症状が出ることもあり、俗にモーニングアタックといわれる。就寝中に吸い込んだ花粉が目覚めとともに症状を引き起こしたり、自律神経の切り替えがスムーズにいかないのが、鼻粘膜における高まった過敏性とあいまって症状が出ると考えられている。緊張すると症状がおさまる、リラックスすると症状が出てくるなどのことも、自律神経のバランスの具合によって説明されている。リラックス時や就寝時には副交感神経が優位となるが、その場合に症状が出やすいという(なお、自律神経の影響を強く受ける、すなわち鼻における自律神経失調症ともいうべき症状は血管運動性鼻炎といい、一般に気温差などにより鼻水が多く出るのが特徴である。雨の日なのに症状がひどい場合、花粉症にこれが合併していると考えることもある)。
遅発相と呼ばれる症状もある
6〜10時間程度遅れて出てくる症状を遅発相という。花粉がないはずの室内で、就寝前などに強い鼻詰まりに悩まされる場合などがこれにあたると考えられている。空気清浄機等を使用しても症状の改善がない場合は、これであるかもしれない。

花粉症と喘息

喘息様発作については、咳が多く出たり呼吸能の低下がみられ、重症例では呼吸困難になることもある。そうなった場合は無理をせずすみやかに救急医療機関を受診するか救急車を呼ぶべきである。従来は、花粉の粒子サイズから、それらは鼻で捕らえられるために下気道の症状である喘息などは起きないとされていたが、近年の研究でスギ花粉の周りにオービクルまたはユービッシュ体と呼ばれる鼻を通過するサイズの微粒子が多数付着していることがわかり、それらを吸引することで喘息が起こり得ることがわかってきた。二次飛散を繰り返すうちに細かく砕かれる花粉もあるとの推測もある。

花粉症とアナフィラキシーショック

花粉のアレルゲン性の高さも異なり、花粉の種類と量によっては、まれにアナフィラキシーショックを起こすこともある。重症者や、特に喘息の既往症のある患者は、激しい呼吸によって多量の花粉を吸引するおそれがあるような運動はなるべく避けるべきである(スギ花粉のアレルゲン性はそう高くはない)。

果物などを食べると口の中にかゆみや痺れなどを生じる口腔アレルギー症候群(OAS)を起こす場合もある。特に北海道に多いシラカバ花粉症でよく見られるほか、関西で多いヤシャブシ花粉症などでもみられる。リンゴ、モモ、ナシ、イチゴなど、バラ科の果実に反応することが多い。患者の多いスギ花粉症ではあまりないが、メロンなどに反応する例が知られている。トマトにも反応するという。アレルゲンがきわめて類似しているためと考えられている。

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●原因(医学的見地から)

花粉症は、患者が空中に飛散している植物の花粉と接触した結果、後天的に免疫を獲得し、その後再び花粉に接触することで過剰な免疫反応、すなわちアレルギー反応を起こすものである。アレルギーの中でも、IgE(免疫グロブリンE)と肥満細胞(マスト細胞)によるメカニズムが大きく関与する、即時型のI型アレルギーの代表的なものである。

同じI型アレルギーが主であるアトピー性皮膚炎では、IV型のアレルギー反応も部分的に関与するといわれる(症例によってはIII型も関与するといわれるが確証はない)。花粉症でも、皮膚症状が出る場合は、IV型(すなわち接触性皮膚炎。いわゆるかぶれである)が関与している場合もあるだろうと考えられている。

ここでは、即時型のI型アレルギーのみを紹介している。また、一つの仮説としてTh細胞バランスを紹介する。

アレルギー反応のメカニズム

感作成立

花粉症の患者は、症状が現れる以前にそのアレルギーの元(アレルゲン)になる花粉に接触している。目や鼻などの粘膜に花粉が付着すると、花粉内およびオービクルからアレルゲンとなるタンパク質が溶け出し、マクロファージ(貪食細胞)に取り込まれ、非自己(異物)であると認識される。この情報は胸腺由来のリンパ球であるヘルパーT細胞のうちのTh2を介し、骨髄由来のリンパ球であるB細胞に伝えられる。そして、B細胞はその花粉アレルゲンと特異的に反応する抗体を作り出す。

抗体は本来、体内に侵入した病原細菌や毒素などの異物を排除・無害化するためのものであり、ヒトにはIgG、IgM、IgA、IgD、IgEの5つのタイプが存在するが、花粉症の患者で最も重要なのがIgEである。(こうした抗体が関与する免疫反応を液性免疫という。)このIgEは、血液や粘膜中に存在する肥満細胞や好塩基球に結合し、再び花粉アレルゲンが侵入してIgEに結合すると、様々な化学伝達物質(ケミカルメディエーター)が遊離して症状を引き起こすことになる。(後述)

なお、IgEが一定レベルまで肥満細胞に結合した時を感作が成立したと言い、発症の準備が整ったことになる。どの程度までIgEが蓄積されると発症するかなどは個人差が大きいと考えられている。また、IgEのレベル以外に発症を誘引する因子があるのかないのかなどについても詳しいことは分かっていない。いずれにしろ、ある年に突然に花粉症が発症したように思えても、それまで体内では発症のための準備が着々と進んでいたということである。このことを理解しやすくするため、一般にアレルギーコップという例えがよく用いられる。すなわち、体内のコップに長期間かけて一定レベルの発症原因がたまり、それがあふれると突然に発症するというものである。

感作が一旦、成立すると、原則的に花粉症の自然治癒は困難である。病原菌などに対する免疫と同様、「花粉は異物である」との情報が記憶されるためである。

発症

遊離したケミカルメデイエーターのうちもっとも重要なのは、ヒスタミンとロイコトリエンである。

  • ヒスタミン:知覚神経(三叉神経)を刺激してかゆみを感じさせたりくしゃみ反射を起こす。また、分泌中枢を刺激することで腺からの鼻汁の分泌も増える。
  • ロイコトリエン:血管を広げ、水分などが染み出ることにより粘膜が腫れ上がる。すなわち鼻詰まりがおこる。目(眼瞼および眼球結膜)などにおける反応も同様である。

    その他、PAF(血小板活性化因子)、トロンボキサンA2、プロスタグランジンD2などのケミカルメディエーター、各種のインターロイキンなどのサイトカインも症状に少なからず関係するといわれるが、花粉症(鼻アレルギー)の実際の症状においては、どれほどの影響があるのかなどくわしいことは明らかになっていない。

    こうした症状そのものは、体内に入ってきた異物を体外に出すための反応であり、また引き続いて体内に入ってこないようにする正常な防衛反応であると解釈できる。しかしながら、害のない異物と考えられる花粉アレルゲンに対して過剰に反応し、それによって患者が苦痛を感じる点が問題となる。

    遅発相反応のメカニズム

    症状を起こした粘膜では、血管から浸潤した炎症細胞(特に好酸球)からのロイコトリエン等によってさらなる鼻粘膜の膨張が起こる。その他のケミカルメディエーターや酵素などにより組織障害も起きる。抗原曝露後6〜10時間にみられる遅発相反応がこれで、アレルギー性炎症と呼ばれる。こうした炎症細胞を呼び寄せるのも肥満細胞などから放出されるケミカルメディエーター(上記のPAFなど)である。

    慢性化反応のメカニズム

    症状が繰り返し起こることによって、粘膜過敏性は増加し、症状は慢性化する。不可逆的な粘膜の肥厚なども起こり得る。重症例では、花粉の飛散が減少または終了しても、病変はすぐには改善されない。

    Th細胞のバランス

    一つの仮説として、免疫系を制御しているヘルパーT細胞のバランスが関与するという考えがある。抗体産生細胞であるB細胞に抗原の情報を伝達するヘルパーT細胞は、産生するサイトカインの種類により1型と2型(Th1とTh2)に大別される。これらのうち、インターロイキン4などを分泌してアレルギーに関わるIgEを産生するように誘導するのはTh2である。いっぽうのTh1は主に感染症における免疫反応に関わる。すなわちマクロファージやキラーT細胞などを活性化させ、細菌そのものやウイルスに感染した細胞を障害する(細胞性免疫という)。B細胞にIgGを産生させ、いわゆる正常の免疫を作ることにも関与する。

    これらのことから、アレルギー患者においてはTh2が優位に働いているということがいえるが、なぜTh2が優位になるのかについてはよく判っていない。幼少時における感染症が減ったためにアレルギーを起こしやすい体質になっているのではないかという説については、この仕組みが関与していると考えられている。成長期において細胞性免疫を獲得する機会が減っているため、おのずとTh1よりTh2が優位になる人が多く、アレルギー人口が増えたというものである。強く影響を与える感染症としては、過去に国民病ともいわれた結核が疑われている。鼻症状に限定すれば、やはり過去には多かった副鼻腔炎の減少の関与を考える場合もある。

    これらヘルパーT細胞のバランスは出生後数ヶ月のうちに決まるとも、3歳程度までのうちに決まるともいわれるが、のちに人為的に変化させることもできるという説もある。なお、ヒトは胎内にいるときや出生直後はもともとTh2優位の状態であり、また、Th1とTh2は相互に抑制しあう関係にあるという。

    衛生仮説ともいわれるこの説は現在もっとも有力な説となっており、概ね広く合意を得ている。実際に結核のワクチンであるBCG接種によって花粉症の治療をしようという試みや、結核菌と同じグラム陽性菌である乳酸菌の一種を摂取することが治療に役立たないかどうかの研究も行われている。菌のDNAの一部であるCpGモチーフを抗原ペプチドとともに投与して減感作療法の効率をあげる試みもなされている。

    環境中の細菌等が産生する微量の毒素が関係すると提唱する研究者もいるほか、最近では、医療における抗生物質の多用(によるヒトと共生している菌のバランスの崩れ)が関わっているのではないかという見方も出てきている。ピロリ菌感染との逆相関が認められることも報告された。

    しかしながら、近年の研究によれば、単にTh1/Th2バランスによってのみ説明できることばかりではないこともあり、調節性T細胞の関与を考える説も出されている。衛生仮説を説明したこのTh1/Th2パラダイムは1980年代後半に提唱されたものだが、広く免疫を考えるときに重要なものであることは現在でも変わりがない。

    ●その他の原因

    花粉症の患者では、原因植物の花粉に対するIgE量が多いことは明らかであり、これがアレルギーを起こす直接の原因である。しかしながら、花粉症の原因となる花粉と接触しても全ての人が花粉症になるわけではなく、IgEが多くても発症しない人がいる。またIgEの量と重症度とは必ずしも相関しない。なぜこうしたことがあるかについては、遺伝要因(遺伝的素因)や環境要因などさまざまな要因の関与が考えられている(すなわち花粉症は多因子疾患である)が、全貌は明らかになっていない。

    遺伝要因

    遺伝要因については、広く体質(いわゆるアレルギー体質)と呼ばれるものが相当する。しかし広義の体質は、遺伝による体質と、出生後に後天的に獲得した体質とが混同されているため、これらは分離して考える必要がある。アレルギーになりやすい遺伝的素因、すなわちIgEを産生しやすい体質は劣性遺伝すると考えられており、それを規定する候補遺伝子は染色体11q や5qなどに存在するといわれるが確証はない。こうした遺伝的要因については、IgE産生に関わるもののほか、各種のケミカルメディエーター遊離のしやすさや受容体の発現のしやすさの違いなども考えられている。どんな物質に対してアレルギーを起こすかということも、遺伝的に規定されているとの説もある。

    なお、花粉症についての調査ではないが、両親ともアレルギーではない場合に子どもがアレルギーになる率は26.7%、両親ともアレルギーの場合は57.4%、母親または父親がアレルギーだと44.8/44.1%との数字がある。他のいくつかの調査でもほぼ同様である。

    環境要因

    環境要因については社会のあり方とも関係するため、様々な思惑による俗説が多く流布しているが、下記に記載した。証拠が確定されていないものも含まれるため、安易に信じないことが必要である。

    ディーゼル排気ガスの関与

    ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微粒子(DEP)の関与を提唱している研究者もいる。動物実験の結果から、この微粒子が体内に入ると抗体を産生する効果が増強(アジュバント)され、しかもIgEタイプの抗体が優位に産生されるという報告がある。ヒト細胞を使った実験でも、これが支持された。この仮説は1970年代ごろから花粉症患者が増えた原因を、大気汚染の影響から説明するものとして注目されている。モータリゼーションの発達とともに花粉症患者が増えたこともよく説明する。

    しかし、上記の実験は他の汚染物質等との比較対照実験がなされていないため、これのみで結論付けることは科学的ではない。非現実的な条件を設定した動物実験や試験管レベルでの実験を医学的根拠と考えるならば、さまざまな健康食品も医学的根拠があることになる。また、実際にディーゼル排ガス汚染地域の住民に特異的に花粉症が多いという疫学調査の結果は存在せず、花粉症が社会問題化したころから考えれば、広い意味での大気汚染は改善しているのに患者数が増え続けていることは説明できない。海外における、大気の清浄な地域でもアレルギーが増えていることも説明できない。大気汚染との関連は、世界的に支持されている説とはいえないともいわれている。現状では、はっきりしたことはいえない、と考えざるを得ない。

    ただ、最近、遺伝的に炎症を回復させる抗酸化機能が弱い体質の患者は、ディーゼル排ガスなどの影響を強く受けて症状がひどくなるという研究が海外でなされた。すなわち、排ガスなどは発症要因ではないかもしれないが、影響を受けやすい体質の患者にとっては症状の悪化要因(回復が遅れる要因)のひとつになり得ることが示唆される。このような個人個人の遺伝的特質に関する研究は、今後も進むと考えられる。

    大気汚染物質としては、ディーゼル排ガスのほか煙草の煙や換気の悪い室内での暖房時に出るガス状物質も症状を悪化させると考えられている。二酸化窒素などの窒素酸化物やオゾンなど、環境中の有害ガスも症状を増悪させるという。黄砂や土ぼこりなども、症状を悪化させるという報告がある。

    このように、各種の大気汚染の原因物質が増悪因子であるのであれば、それらが多い地域の患者は症状が悪化し、おのずと治療に訪れる人数も増えるであろう。すなわち、医療者から見れば、見かけ上、大気汚染地域に患者が多いようにみえるはずである。患者レベルにおいては、どのような影響があろうとも、避けたほうがよいのはいうまでもない(花粉症患者でなくとも避けたほうがよい)。

    寄生虫感染の減少

    別の研究者は寄生虫感染症との関連に注目している。IgEは本来、ぎょう虫や回虫などの寄生虫が寄生したときに産生され、これらを排除するために働くものだとされる。1960年代以降の日本では衛生環境の改善によって寄生虫感染症が激減したが、このことによって「攻撃する相手」を失ったIgEが、寄生虫の代わりに花粉を攻撃するようになったというものである。寄生虫に感染していると大量のIgEが産生され、それがびっしりと肥満細胞を覆うため、のちに花粉に対するIgEが産生されても肥満細胞に結合することができないという説明もなされる。寄生虫感染の多い東南アジアでアレルギーが少ないことなどが根拠のひとつとされる。また、ニホンザルにおける調査で、花粉症有病率が長年にわたり一定であることもこの説を支持するという。すなわち、寄生虫感染率も長年にわたり一定であるためであるという。

    しかしながら、大きな話題となったこの仮説はその論拠が薄弱であり、ヒトでの疫学調査では相反する結果が得られたり、保存されている過去の血液の抗体検査をしても理論どおりの結果が出ない。寄生虫感染がほとんどなくなった現在でも、アレルギーがなお増加していることは説明がつかない。東南アジアにおいても、アレルギーは増加しているという事実も非支持的である。そのため、現在では市民レベルの噂話にのぼる程度のものになっている。この説を一般向け書籍を出版することによって大きく広めようとしたのは、著者自身の行う寄生虫学をもっとポピュラーにしようとの思惑があったのだと揶揄する人もいる。この説そのものは、社会的に話題になる以前より他の研究者によって提唱されていたものである。

    ただし、寄生虫感染はIgE産生を亢進することは確からしく、この理論が完全に否定されたわけでもない。その理由として、あらかじめ寄生虫感染を起こしていると花粉症発症は抑制されるが、花粉症になってから寄生虫感染を起こしても症状は抑制されないという機序を考える場合もある。上記の衛生仮説に含むこともある。

    この説を信じ、みずから寄生虫に感染しようという患者もごくわずかに存在するようであるが、基本的に命に関わらない疾病である花粉症と異なり、寄生虫感染は場合によっては命を落とすこともある疾病であることを理解せねばならない。そうした試みは厳に慎むべきである。

    なお、こうした寄生虫のエキスなどを投与して症状を改善しようという試みは、たしかに免疫のバランスが変化するものの、発ガン率が高まるおそれがあるなどの副作用の問題が生じたといい、断念されているようである。詳細は不明である。

    都市化の影響

    都市化との関連については、別項にて述べているように、それによりいつまでも空中を漂い続ける花粉数が増えているという説もあり、概ね広く支持されている。また「都市化」を「近代化」のように解釈すれば、それによって衛生面での環境が整備され、上記の衛生仮説に結びつく。

    そのほか、従来からの日本式家屋とは異なる高気密の住宅が普及したことも、花粉症が増えた原因のひとつではないかという考えがある。高気密ではあるが高断熱ではない住宅では局所的に湿度が蓄積されやすく、不十分な換気などによってダニ・カビが繁殖しやすい環境になる。これによって幼少児期のうちからハウスダストに対するアレルギー性鼻炎小児喘息などを発症し、中にはそれが原因で花粉症にもなりやすくなっている人もいるとの考え方である。すなわち、なんらかのアレルギーになると、それがきっかけで違うアレルギーにもなりやすくなるというものである(逆に、そうした時期にアレルゲンを絶つとアレルギーになりにくいとの研究もある。たとえば妊娠期および授乳期に卵を厳格に除去すると、卵に対するIgEが低値であるだけでなく、ダニに対するIgEも低値であったという研究もある。しかしながらさまざまなデータがあるため、現在では、それらの関連は不明であるとされている)。

    しかし、こうした住宅事情の変化はハウスダストアレルギー増加をうまく説明しても、前述のようにどのようなアレルゲンに反応するかは遺伝的に規定されているという説によれば、これが花粉症増加の原因であるとはいいがたい。ただし花粉症患者のかなりは、その発症以前にハウスダストアレルギーを発症しているという事実もあり、花粉症の素因を持った人の発症時期を早める影響は否定できない(そうであれば、高気密住宅の多い都市部に花粉症患者が多くなることも、ある程度は説明ができる)。

    都市生活ならではのストレスや食生活の変化(洋風化)などについては、明らかなことはわかっていないが、個人により影響を強く受ける人もいるかもしれないとは考えられている。特に食品中のさまざまな栄養成分とアレルギーとの関連は、実験的なデータや理論(仮説)はあるものの、疫学的に実証されているとはいいがたい。建材などから発生する有毒化学物質や食品中の添加物の影響を考えるむきもあるが、花粉症との関連は調査されていない。授乳時の人工栄養や早期離乳などについてはいくつかのデータがあるが結論はなされていない。

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posted by kamiryu07 at 18:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 病名カ行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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