2008年02月21日

多発性硬化症

多発性硬化症(たはつせいこうかしょう、multiple sclerosis; MS)とは、中枢性脱髄疾患の一つで、脳、脊髄、視神経などに病変が起こり、多彩な神経症状が再発と寛解を繰り返す疾患である。日本では特定疾患に認定されている指定難病である。

落語家の林家こん平が罹患しているとのことで話題となった。

●疫学

中枢性脱髄疾患の中では患者が最も多い。北米、北欧、オーストラリア南部では人口10万人当たり30〜80人ほど罹患しているが、アジアやアフリカでは人口10万人当たり4人以下で、人種によって罹患率に大きな差があることが特徴である。南米、南欧、オーストラリア北部はその中間である。全体としては高緯度のほうが罹患率が高く、日本国内でも北海道と九州では北海道のほうが高い。日本での有病率は増加してきており、10万人あたり10人程度であることが2006年神経免疫班会議で報告されている。

若い人のほうが発症しやすい。罹患のピークは30歳頃であり、約80%が50歳までに発症する。男女比は女性のほうが多い。

●原因

さまざまな説はあるがいまだ原因は不明である。このうち遺伝、自己免疫、ウイルスなどの感染が可能性が高いと思われている。

  • 遺伝
    アジア・アフリカ系と欧米系で罹患率が大きく異なることから遺伝的要因が示唆されている。罹患率の低い地域から高い地域に移住した人や、罹患率の高い地域に住む先住民の罹患率は高いわけではないということも支持する要因である。しかし家族内での発症は決して高いわけではなく、複数の遺伝子が発症に関わると思われている。
  • 感染
    再発と寛解を繰り返すという病態からウイルス感染が疑われている。しかし、今まで報告されたウイルスは数多くあるものの、どれも特異的な関連ははっきり示されてはいない。
  • 自己免疫
    根拠は不十分であるものの、いくつかの免疫異常を疑わせる所見が見られる。以下にその一例を示す。
    • 病巣の周囲にリンパ球やプラズマ細胞が集まっている。また免疫グロブリンも沈着している。
    • サプレッサーT細胞が減少し、ヘルパーT細胞のTh1タイプが増加している。
    • 免疫抑制剤が治療に有効である。

日本をはじめとするアジア地域では、視神経と脊髄を病変の主体とする比較的症状の重い視神経脊髄型多発性硬化症が多いとされてきたが、2004年に多くの視神経脊髄型多発性硬化症の血液中に特異的な自己抗体が存在していることが発見された。その後、この自己抗体はアクアポリン4という水チャンネルを認識することがわかり、容易に測定可能となった。現在、視神経脊髄型多発性硬化症は欧米の視神経脊髄炎(Neuromyelitis optica)と同一病態と考えられている。

●症状

症状は数多く、特定の症状が決まって起こるということはない。アジアでは視力障害が初発となることが多い。経過中に多く見られるのは運動麻痺、感覚障害、深部反射亢進、視力障害、病的反射などである。欧米では失調症や企図振戦が多いが、アジアではそれほど多くない。

●検査

  • 髄液検査:髄液中で免疫グロブリンが増加する。等電点電気泳動法により髄液を泳動し、IgGを免疫染色すると、オリゴクローナルバンドと呼ばれるバンドが出現する。通常型の多発性硬化症の60~70%で陽性となるが、特異性は低い。
  • MRI:90%以上の症例でMRIに異常が見られる。頭部MRIで特に脳室周囲に病変が発見されることが多い。
  • 血液検査:軽度の白血球増加が見られることもある。

●経過

再発と寛解を繰り返すことが特徴であるが、その経過を取るのは約85%で、約15%では慢性に進行していく。また、再発と寛解を繰り返しながらも徐々に寛解時の状態が悪化していく(二次進行型と呼ばれる)ことも多い。再発の頻度は年1回程度である。生命予後はあまり悪くなく、健常人とほとんど変わりない。しかし機能予後については現在も良好とは言えず、運動機能が低下して車椅子での生活となることも多い。

●治療

  • 再発抑制
    インターフェロンβを皮下注射することで再発率を約30%減少させられることがわかっている。
  • 急性増悪期
    ステロイドを点滴静注する。軽度であれば経口投与する。
  • 現在研究中の治療
    骨髄移植が治療として有望視されている。

●関連項目

  • 特定疾患
  • 神経学
  • 自己免疫疾患


posted by kamiryu07 at 08:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 病名タ行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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