パーキンソン病(パーキンソンびょう、英:Parkinson's disease;PD)は、脳内のドーパミン不足とアセチルコリンの相対的増加とを病態とし、錐体外路系徴候を示す疾患である。神経変性疾患の一つである。日本では難病(特定疾患)に指定されている。本疾患と二次性にパーキンソン病と似た症状を来たすものを総称してパーキンソン症候群と言い、本症はパーキンソン症候群を示す病気の一つである。
●歴史
1817年にイギリスのジェームズ・パーキンソンにより初めて報告された。
●疫学
30歳代〜80歳代まで幅広く発症する。中年以降の発症が多く、高齢になるほど有病率は増加する。20歳代の発症はまれである。40歳以下で発症した場合を若年性パーキンソン病と呼ぶが、症状に差はない。 日本における有病率は10万人当たり100〜150人といわれる。欧米では10万人当たり150〜200人といわれており、日本の有病率はやや低いが、明らかな人種差や地域差があるかは不明である。厚生労働省特定疾患医療受給件数の統計によれば、平成18年度の受給件数は86,452件であり、全特定疾患中潰瘍性大腸炎に次いで多くなっている。しかしこれは、平成15年10月よりパーキンソン病関連疾患として本疾患に進行性核上性麻痺と大脳皮質基底核変性症を併せたものになったため、現在では本疾患の正確な人数を反映する数値ではなくなっている。また特定疾患受給の要件として、後述するHoehn & Yahr分類の3度以上が目安となっているため、実際の患者数はより多いものと予想される。
●病因
病理および病態で詳述するように、主に中脳黒質緻密質のドーパミン分泌細胞の変性が主な原因である。 ほとんどの症例が孤発性である。孤発例のほとんどについては、神経変性の原因は不明である。遺伝による発症もあり2007年現在いくつかの病因遺伝子が同定されている。
- 現在わかっている原因遺伝子
- Parkin
- DJ-1
- α-synuclein
- PINK1
- UCHL-1
- LRRK2/dardarin
●症状
主要症状は以下の4つである。振戦、無動、固縮が特に3主徴として知られている。
- 安静時振戦(ふるえ resting tremor)
- 指にみられることが多いが、上肢全体や下肢、顎などにもみられる。安静にしているときにふるえが起こることが本症の特徴である。精神的な緊張で増強する。動かそうとすると、少なくとも一瞬は止まる。書字困難もみられる。指先のふるえは親指が他の指に対してリズミカルに動くのが特徴的であり、薬を包んだ紙を丸める動作に似ていることからpill rolling signとも呼ばれる。
- 筋固縮(筋強剛) (rigidity)
- 無動、寡動(akinesia, bradykinesia)
- 動作の開始が困難となる。また動作が全体にゆっくりとして、小さくなる。仮面様顔貌、すくみ足、小刻み歩行、前傾姿勢、小字症、小声症など。ただし床に目印となる線などを引き、それを目標にして歩かせたり、障害物をまたがせたりすると、普通に大またで歩くことが可能である。
- 姿勢保持反射障害(postural instability)
- バランスを崩しそうになったときに倒れないようにするための反射が弱くなる。加速歩行など。進行すると起き上がることもできなくなる。
多くの症例で、特に病初期に症状の左右差がみられる。進行すると左右差はなくなることが多い。
また自律神経症状(便秘、起立性低血圧、発汗低下、垂涎、排尿障害、インポテンツなど)やうつ症状、痴呆を合併する場合が多い。 仮面様顔貌、マイヤーソン徴候(Myerson symptom)なども診断の参考になる。またL-dopa剤が奏効することが特徴であり、これは他のパーキンソン症候群と本疾患を鑑別する上で重要な事実である。
5段階の病期分類がある(Hoehn-Yahr分類)
- 1度 一側性パーキンソニズム
- 2度 両側性パーキンソニズム
- 3度 軽度〜中等度のパーキンソニズム。姿勢反射障害あり。日常生活に介助不要
- 4度 高度障害を示すが、歩行は介助なしにどうにか可能
- 5度 介助なしにはベッド又は車椅子生活
無動のため言動が鈍くなるため、一見して痴呆またはその他の精神疾患のようにみえることもあるが、実際に痴呆やうつ病を合併する疾患もあるため鑑別を要する。
認知症を伴うパーキンソン病・疫学
パーキンソン病は、高率に認知症を合併する。27の研究のメタアナリシスによると、パーキンソン病の約40%に認知症が合併していた。約30%というメタ解析データもあり、その研究では全認知症症例の3.6%がパーキンソン病であった。パーキンソン病患者は、認知症を発症するリスクは、健常者の約5〜6倍と見積もられており、パーキンソン病患者を8年間追跡調査した研究では、78%が認知症を発症した。
●病理
肉眼的には黒質・青斑核の色素脱失がみられ、 組織学的には、黒質や青斑、迷走神経背側核、視床下部、交感神経節などの神経細胞脱落が生じていて、 典型的には残存神経細胞やその突起の一部にレビー小体(Lewy body)という特徴的な封入体が認められる。近年ではレビー小体は自律神経節など末梢レベルでも蓄積していることが明らかになってきた。 リン酸化α-シヌクレインの異常な蓄積が認められる。
●病態
中脳黒質のドーパミン神経細胞減少により、これが投射する線条体(被殻と尾状核)においてドーパミン不足と相対的なアセチルコリンの増加おこり、機能がアンバランスとなることが原因と考えられている。しかしその原因は解明に至っていない。このため、パーキンソン病は本態性パーキンソニズムとして、症状の原因が明らかでないパーキンソニズムに分類される。また腸管におけるアウエルバッハ神経叢(Auerbach plexas)の変性も病初期から認められており、本疾患が全身性疾患であるとの再認識をされるようになっている。
●治療
本疾患は昭和53年10月1日に特定疾患治療研究事業対象疾患に指定され、公費受給が可能となっている(ただし前述のように、Hoehn-Yahr分類の3度以上が認定の目安となるため、病初期の治療は健康保険の範囲内で自己負担せざるをえない)。
運動療法
患者は進行性に運動が困難になっていくが、放っておくと廃用によって二次性の筋力低下や関節拘縮をきたすことがあるため、極力運動を行うように心がけることが大切である。またそのことによって少しでも症状の進行を遅らせることができるともいわれている。
薬物療法
- レボドパ(L -dopa) ドーパミンの前駆物質。主に3主徴に対して、きわめて有効に働く。薬物治療のゴールデンスタンダードだが、長期にわたる服用によりon - off現象(突然薬の効果がきれ体が動かなくなる)やwearing off現象(内服直後や時間がたった時に効果が突然切れる)といった副作用が現れるため、現在では少しでも内服開始時期を遅らせる治療法が一般的となっている。
- ドーパミン受容体作動薬(麦角系としてカベルゴリン、ペルゴリド、ブロモクリプチン。非麦角系としてプラミペキソール、ロピニロールなどがある)
- ドーパミン放出薬(アマンタジン)
- MAO-B阻害薬(セレギリン)
- COMT阻害薬(エンタカポン)
- 抗コリン剤(トリヘキシフェニジルなど)
- ノルアドレナリン作動薬(ドロキシドパは日本で開発されたノルアドレナリンの非生理的前駆物質)
ドーパミンを直接投与しないのは、ドーパミンが血液脳関門を通過できないためである。
手術療法
脳神経外科学領域において視床下核部定位脳手術が著効する例もあるが、侵襲をともなう治療法であるために慎重な適応が必要である。
●ニュース
京都大先端領域融合医学研究機構の木下専(きのしたまこと)助教授、猪原匡史(いはらまさふみ)特別研究員らが所属するグループによって、原因物質がたまるのを抑えるSept4というたんぱく質の性質を確認。2007年2月15日付のニューロン電子版に発表する。これは「進行を遅らせる効果が確認された」という趣旨の発表であり治療法が確立されたわけではないが、病気のメカニズムの解明がまた一歩進んだことを示す。
また、米シリコンバレーの研究所で、タバコに含まれるニコチンに当該疾患の予防効果があるという研究結果が発表されている。ニコチンを投薬したマウスは、それ以外のものと比べて運動障害の発生率が50%抑制されたという。ただ、ニコチンは毒性が強いため、医療用としての転用には更なる研究が待たれる。
●社会的影響
パーキンソン病に罹患した著名人
- 梅原"PAUL"達也(44MAGNUM)
- アドルフ・ヒトラー
- フランシスコ・フランコ
- アーサー・ケストラー
- 江戸川乱歩
- 三浦綾子
- 岡本太郎
- ケ小平
- 山田風太郎
- キャサリン・ヘプバーン
- ペーター・ホーフマン
- ビリー・グラハム
- ヨハネ・パウロ2世
- モハメド・アリ
- マイケル・J・フォックス
- E・H・エリック
- 小森和子
- 石母田正
- 萱野茂
- モーリス・ホワイト
- 神部和夫(シュリークス)
- デボラ・カー
●関連項目


