再生不良性貧血(さいせいふりょうせいひんけつ、aplastic anemia; AA)とは骨髄機能低下による貧血の1つ。英語の正確な和訳は低形成貧血であり、日本語の再生不良性は別の研究者が提唱したaregenerative anemiaを和訳したものである。
●病態
骨髄中の造血幹細胞が減少することによって骨髄の造血能力が低下し、末梢血中の全ての系統の血球が減少(汎血球減少と言う)する。造血幹細胞の減少した骨髄は、脂肪細胞に置き換えられる。この状態の骨髄を脂肪髄と言う。再生不良性貧血はMDS、PNHと類縁疾患である可能性が示唆されており、それぞれの疾患との鑑別が重要視されている。
●分類
顆粒球、血小板、網赤血球の数により重症度を分類する。
- 重症
- 少なくとも下記の2項目を満たすもの
- 顆粒球数<500/μl
- 血小板数<20,000/μl
- 網赤血球絶対数<20,000/μl
- 中等症
- 少なくとも下記の2項目を満たすもの
- 顆粒球数<1,000/μl
- 血小板数<50,000/μl
- 網赤血球絶対数<60,000/μl
- 軽症
- それ以外のもの
●原因
再生不良性貧血の原因は、先天性と後天性に分けて考えられる。
- 遺伝子異常による先天性再生不良性貧血を、ファンコーニ貧血(Fanconi anemia)と言う。この遺伝子異常があるとDNA架橋剤への暴露による染色体異常が起きやすく、造血幹細胞がアポトーシスに陥りやすくなる。先天性再生不良性貧血は常染色体劣性遺伝である。
- 後天性再生不良性貧血はさらに、後天性と二次性(続発性)に分けられる。
- 特発性再生不良性貧血は、その名の通り原因不明の疾患である。しかしながら近年では、遺伝子異常や免疫学的機序の異常の関与が指摘されている。
- 二次性再生不良性貧血の原因は様々なものが知られている。ウイルス性肝炎は、二次性再生不良性貧血の原因の中で最多である。肝炎発症後1〜3ヶ月で発症するが、原因となるウイルスについては、既知のウイルスではないと考えられており、未だ同定されていない。また、X線、放射性物質、抗癌剤、ベンゼンおよび誘導体、無機砒素化合物などは本症を引き起こす可能性がある。抗生物質、抗痙攣薬、抗甲状腺薬、鎮痛薬、糖尿病治療薬などの一部も挙げられている。しばしば起こすものとして因果関係が証明されているのはクロラムフェニコールのみである。
●疫学
アジアにおける年間患者発生数は5〜7人であり、欧米諸国はこれの1/2〜1/3程度である。人種による差異はなく、地域的なものと考えられている。発症年齢のピークは15〜19歳と70代である。女性のほうが多いが、40歳までは性差はない。
●症状
自覚症状
- 息切れ
- 動悸
- 眩暈
- 出血傾向
軽症・中等症例や貧血の進行が遅い場合は自覚症状に乏しい。検診で偶然発見されることもある。
他覚症状
- 顔面蒼白
- 皮下出血
- 眼底出血
合併症
- 播種性血管内凝固症候群
- 敗血症
- ヘモクロマトーシス
- 心肥大・心不全・不整脈
- 糖尿病
●検査
一般検査
- 末梢血塗沫標本検査
- 汎血球減少を来たす。
- 血算
- 正球性正色素性貧血 : 作られる赤血球は正常な赤血球なので、正球性(または大球性)正色素性貧血を示す。
生化学検査
- 血清生化学検査
- 血清鉄、血中エリスロポエチン値、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)などの上昇が見られる。
機能検査
- 血液機能検査
- 鉄動態検査 : 鉄飽和率などの上昇が見られる。
画像診断
- 骨髄シンチグラフィ
- 骨髄の111Inシンチグラフィでは骨髄への取り込み低下が見られる。
- MRI
- MRIでは胸椎と腰椎がSTIR法では低信号、T1強調画像では高信号を示す。
病理検査
- 骨髄穿刺
- 幼弱顆粒球、赤芽球、巨核球の著明な減少が見られる。重症例でも胸骨に造血巣が残っていることもあるため、正確な評価のためには骨髄生検が必要。
- 骨髄生検塗沫染色標本検査
- 骨髄の造血細胞が減って、残りの脂肪組織が目立つ。脂肪組織が目立つ骨髄を脂肪骨髄(fatty marrow)と言う。
●治療
支持療法
- 輸血
- 白血球除去赤血球を輸血する。頻回輸血する場合はデフェロキサミンを投与してヘモジデローシスを予防する。血小板は出血傾向が出なければ輸血しない。
- 造血因子
- G-CSFを投与する。
造血回復を目指した治療
- 免疫抑制療法
- シクロスポリン、ATG(anti-thymocyte globulin)の投与
- 蛋白同化ホルモン療法
- 骨髄移植
いずれも副作用があるため、重症例や中等症例のうち輸血を必要とする場合や汎血球減少がある場合のみ行い、それ以外では経過観察する。重症例では20歳以下では骨髄移植が第一選択であり、45歳以上では合併症の頻度が高いためまず免疫抑制療法を試す。20〜45歳では患者の状態や希望に応じて選択する。免疫抑制療法を行う場合は、まずシクロスポリンやATGを投与し、無効であれば蛋白同化ホルモンを投与する。それも無効であれば骨髄移植を実行する。なお、本疾患における非血縁者間の骨髄移植は生命予後が悪いため、免疫抑制療法が無効であった場合に限られる。
●予後
軽症・中等症例では自然に回復する例がある。重症例では支持療法や造血能回復治療を行うことで、長期生存率が90%以上となっている。ただし、好中球が0に近く、G-CSF投与後も好中球が改善しない例は予後不良である。
免疫抑制療法によって改善した例でも、約15%が骨髄異形成症候群、その一部は急性骨髄性白血病に移行し、約30%が発作性夜間ヘモグロビン尿症に移行する。
●歴史
- 1888年にドイツの医師、パール・エールリッヒが汎血球減少と子宮出血を起こして死亡した21歳女性を剖検したところ、大腿骨が脂肪化していたことを発見し、aplastische Anamieと命名した。
●各国において
日本
患者数は約5,000人と推定されている。現在特定疾患に指定されている。



